ピコレーザーのパルス幅は短いほどいい?Qスイッチとの違いを熱緩和時間・PIHから解説|名古屋
- 2026.9.20

ピコレーザーを比較すると、「370ps」「450ps」「750ps」などの数字を目にすることがあります。この数字が表しているのが、レーザー1発を照射する時間であるパルス幅です。
一般には「パルス幅が短いピコレーザーほど高性能」と思われがちですが、老人性色素斑の治療では必ずしもそうではありません。
パルス幅を短くすると、周囲への熱拡散を抑えながら光音響作用を強く利用しやすくなります。一方、老人性色素斑をしっかり除去するには、光音響作用だけでなく、ある程度の光熱作用を利用した方が病変を十分に反応させやすい場合があります。
つまり重要なのは、パルス幅がどれだけ短いかではなく、そのシミにどのパルス幅が適しているかです。
目次
そもそもパルス幅とは?

パルス幅とは、レーザー1発分のエネルギーをどのくらいの時間で照射するかを示す値です。
1ナノ秒(ns)は10億分の1秒、1ピコ秒(ps)は1兆分の1秒です。
Qスイッチレーザーは主にナノ秒領域、ピコレーザーはそれよりさらに短いピコ秒領域で照射します。同じエネルギーを使用する場合、より短い時間にエネルギーを集中させるほど瞬間的なピークパワーは高くなります。
このパルス幅の違いが、メラニンに対するレーザー作用の違いにつながります。
レーザー治療を理解するうえで重要な「熱緩和時間」
レーザー医学では、熱緩和時間(thermal relaxation time)という考え方があります。
熱緩和時間とは、レーザーによって加熱された標的が、その熱を周囲へ逃がしていくまでのおおよその時間です。レーザー治療の基本理論である選択的光熱融解(selective photothermolysis)では、標的の大きさや熱緩和時間を考慮し、周囲へ不要な熱を広げずに標的を選択的に障害することを考えます。つまり、レーザー治療では「どの波長を使うか」だけでなく、どのくらいの時間をかけてエネルギーを入れるかも重要です。
Qスイッチレーザーとピコレーザーの違い
Qスイッチレーザーも非常に短いナノ秒パルスを用いるため、老人性色素斑などの色素性病変を十分に治療できます。一方、ピコレーザーではさらに短いピコ秒領域までパルス幅を短縮します。短時間にエネルギーが集中することでピークパワーが高くなり、急激な温度上昇と体積膨張によって圧力波が発生します。
これが、
光音響作用(photoacoustic effect)
光機械的作用(photomechanical effect)
と呼ばれる作用です。
大まかに表現すると、
Qスイッチレーザー
→ 光熱作用の比重が比較的大きい
ピコレーザー
→ 光音響・光機械的作用の比重をより高めやすい
という違いがあります。
ピコレーザーでも熱作用はある
「ピコレーザーは熱を使わず、衝撃波だけで色素を砕く」と説明されることがありますが、厳密には違います。レーザー光がメラニンへ吸収されると、まず急激な温度上昇が起こります。その急激な熱膨張が圧力波につながり、光音響・光機械的作用が発生します。
つまり、ピコレーザーでも光熱作用(光温熱作用)は存在します。
光音響作用と光熱作用は完全に切り離されたものではなく、パルス幅、波長、fluence、スポット径などによって、その比重が変わります。
なぜ当院ではQスイッチよりピコレーザーを使うことが多いのか
Qスイッチレーザーは老人性色素斑に対して有効なレーザーです。ただし、老人性色素斑治療では「シミが取れるか」だけでなく、治療後のPIHまで考える必要があります。
アジア人を対象とした532nmレーザーのsplit-face比較試験では、ピコ秒レーザー側の方が臨床的クリアランスが良好で、PIHも少なかったと報告されています。別の研究でも、Qスイッチ532nmレーザー後のPIHは治療上の重要な問題として扱われています。
当院でも実際の診療で、Qスイッチレーザーによるスポット照射ではPIHが目立ちやすいと感じています。違いは歴然としてあります。
そのため、現在当院で老人性色素斑をスポット治療する場合には、Qスイッチレーザーを積極的に選択することはほとんどなく、基本的にはピコレーザーを使用しています。
現在の老人性色素斑治療では、「取れるかどうか」だけではなく、同じように取れるのであれば、どれだけ周囲への炎症やPIHを抑えて取れるかまで考える段階に来ていると考えています。
なぜピコレーザーではPIHを抑えやすいのか
ピコレーザーは非常に短い時間で標的へエネルギーを集中させます。
そのため、周囲へ熱が拡散する前に色素へ作用させやすく、Qスイッチレーザーより光音響・光機械的作用を強く利用できます。周囲組織への不要な熱影響や炎症を抑えやすいことが、PIHを減らせる可能性につながります。ただし、ピコレーザーでもPIHは起こります。
PIHにはパルス幅だけでなく、波長、fluence、スポット径、治療前の病変、肌質、照射エンドポイント、治療後の紫外線や摩擦など多くの要因が関係します。
では、ピコレーザーのパルス幅は短ければ短いほどいい?

ここがこの記事で最も重要なポイントです。短ければ短いほどよいわけではありません。
非常に短いパルス幅ではピークパワーが高くなり、光音響・光機械的作用を強く出しやすくなります。また周囲への熱拡散を抑えやすいため、PIHを減らす方向にはメリットがあります。
しかし、老人性色素斑はタトゥーのインク粒子を細かく砕けば終わる病変ではありません。
老人性色素斑では、
・メラノソーム
・メラニンを含む角化細胞
・メラノサイト
・表皮構造
などが病変形成に関係しています。
そのため、光音響作用だけを最大化するのではなく、病変そのものへ十分な作用を与え、臨床的にしっかりクリアランスを得ることも重要です。
極端に短いパルス幅はPIHを抑えやすくても、「シミを取れるか」は別問題
非常に短いパルス幅には、周囲への熱影響を抑えやすいという明確なメリットがあります。
しかし、
PIHを抑えやすいこと
と
老人性色素斑を十分に除去できること
は同じ意味ではありません。
老人性色素斑では、ある程度の光熱作用も利用しながら病変全体へ十分なエネルギーを伝えた方が、明確な治療反応を得やすいケースがあります。
そのため、パルス幅の数字だけを見て「100psの方が300psより優れている」「300psの方が750psより高性能」と単純に判断することはできません。
「短ければ短いほどいいわけではない」ことは、当院でも実際に使い分けて確認している
当院では、ディスカバリーピコ バリオパルスによって非常に短いピコ秒パルスからLong側まで使い分けることができ、さらに750ps固定のenlighten SRも使用しています。
そのため、これは単なる理論上の話ではありません。
実際に異なるパルス幅を老人性色素斑へ使用していると、短いパルス幅では炎症やPIHを抑えやすい一方、病変によっては反応が十分に出ず、色素が残ることがあります。
反対に、ある程度長めのピコ秒パルスを使用すると、光音響作用を保ちながら一定の光熱作用も利用でき、老人性色素斑を明確に反応させやすいケースがあります。このため当院では、「ピコレーザーはパルス幅が短ければ短いほど優秀」という考え方はしていません。
短いパルス幅と長めのピコ秒パルスの両方を実際に使い分けられるからこそ、病変によって適したパルス幅が異なることを重視しています。
一番困るのは「老人性色素斑の残存+PIH」

老人性色素斑への反応が不十分で、一部の色素が残った状態にレーザー後PIHが重なると、
老人性色素斑の残存+PIH
という状態になります。
すると数週間〜数か月後に見えている茶色が、
「シミを取り残したのか」
「PIHなのか」
「両方なのか」
が分かりにくくなります。
PIHであれば基本的にピコスポットを追加する病変ではありません。一方、老人性色素斑が残存していれば再照射を検討することがあります。残存とPIHが混ざると、次にレーザーを当てるべきか、PIHとして待つ・治療するべきなのかという判断自体が難しくなります。そのため当院では、PIHを避けることだけを目的に弱く照射するのではなく、過剰な炎症を避けながら老人性色素斑そのものには十分な反応を出すことを重視しています。
なぜディスカバリーピコ PLUSではなく、ディスカバリーピコ バリオパルスを選んだのか
「ディスカバリーピコ」と検索すると、ディスカバリーピコ PLUSを導入しているクリニックも見つかります。ディスカバリーピコ PLUSも複数波長や複数の照射モードを使用できる高性能なレーザーです。しかし、当院が導入しているディスカバリーピコ バリオパルスには、治療設計上重要な違いがあります。メーカー公式でも、VarioPulse Technologyの特徴として3種類のピコパルスから選択できることが示されています。つまり、単純に「ピコレーザーを照射できる」だけではなく、ピコ秒領域そのものの中でパルス幅を選択できるということです。
「ピコ秒を出せる」から「どのピコ秒を使うか選べる」へ
当院がディスカバリーピコ バリオパルスを選んだ理由は、「最短パルスを出したかったから」ではありません。むしろ逆です。老人性色素斑では最短のパルス幅が常に最適とは考えていないため、病変によってパルス幅を変更できることを重視しました。
短いパルス幅が適するケースもあれば、老人性色素斑そのものを十分に反応させるためにLong側を選択した方がよいケースもあります。
つまり、
ピコレーザーを使える
からさらに一歩進んで、
その老人性色素斑にどのピコパルスを使うかまで選択できることを重視して、ディスカバリーピコ バリオパルスを導入しています。Quanta System公式でも、VarioPulse Technologyは3種類のピコパルスを選択し、治療を個別化できる技術として説明されています。
老人性色素斑ではLong側を使用することがある
当院では、老人性色素斑の状態によってディスカバリーピコ バリオパルスのLong側を使用します。これは「長いパルス幅の方が優れている」という意味ではありません。
老人性色素斑に対して、
・十分な光音響作用を利用する
・ある程度の光熱作用も利用する
・病変そのものには明確な反応を出す
・周囲への過剰な炎症は避ける
というバランスを取るためです。
パルス幅を変更できる本当のメリットは、短い・長いのどちらかが優れていることではなく、病変に合わせて選択できることにあります。
enlighten SRの750psを使用している考え方も同じ
当院ではCUTERA社のenlighten SRも老人性色素斑治療に使用しています。
enlighten SRは532nm・1064nmを搭載し、ピコ秒パルス幅は750ps固定です。メーカーの技術仕様でも750psとされています。750psは現在のピコレーザーの中で「最短」を競うような数字ではありません。それでも当院では、老人性色素斑をしっかり反応させるうえで非常に使いやすいパルス幅だと考えています。これは、ディスカバリーピコ バリオパルスでLong側を選択する考え方とも共通しています。
つまり当院では、
「パルス幅が短いピコレーザーほど高性能」
ではなく、
「老人性色素斑をきれいに取るために、どのパルス幅が適しているか」
という視点で機器と設定を選んでいます。
ピコレーザーを選ぶなら「何ps(ピコセカンド)なのか」を一度調べてみてもいい
これからピコレーザーによるシミ治療を受けようと考えている方で、機械の違いが気になる場合には、受診しようとしているクリニックのピコレーザーが何psなのか、一度調べてみてもよいでしょう。
同じ「ピコレーザー」という名称でも、機種によってパルス幅はかなり異なります。
非常に短いパルス幅を特徴とする機種もあれば、750ps前後を使用する機種、ディスカバリーピコ バリオパルスのようにピコ秒領域の中で複数のパルス幅を選択できる機種もあります。大切なのは、数字が小さいことではありません。
そのパルス幅で老人性色素斑を十分に反応させられるのか。
PIHとのバランスをどのように取っているのか。
病変によって照射条件を変えられるのか。
ここまで見ることで、そのピコレーザーをどのような考え方でシミ治療へ使用しているのかが分かります。極端に短いパルス幅はPIHを抑える方向には有利でも、老人性色素斑を十分に反応させることとは別問題です。「最短パルスだから高性能」という説明だけでは、老人性色素斑治療の良し悪しは判断できません。
Qスイッチからピコへ。ただしピコの中では「短さ」を競わない
当院の考え方を一言でまとめると、
ナノ秒のQスイッチよりはピコ秒。
しかし、
ピコ秒の中では短ければ短いほどよいわけではない。
ということです。Qスイッチレーザーでも老人性色素斑を取ることはできますが、当院ではPIHの頻度や治療後の経過を考慮し、スポット治療ではほとんどピコレーザーを使用しています。その一方、ピコ秒領域に入れば、今度はパルス幅を最短にすること自体が目的ではありません。老人性色素斑をきちんと除去しながらPIHをできるだけ抑えるために、光音響作用と光熱作用のバランスを病変ごとに調整することを重視しています。
機械名より「どの設定で使っているか」が重要
同じピコレーザーを導入しているクリニックでも、老人性色素斑に対して同じ治療が行われているとは限りません。
実際の治療では、
・波長
・パルス幅
・fluence
・スポット径
・照射エンドポイント
・シミの濃さ
・シミの大きさ
・肌質
を組み合わせて設定します。
そのため、ピコレーザー治療では「どの機械を置いているか」だけではなく、その機械をどのような考え方で使っているかも重要です。当院では、PIHを減らすことだけでも、強く反応させることだけでもなく、老人性色素斑のクリアランスとPIHのバランスを取りながら照射条件を決めることを重視しています。
Q&A
まとめ|Qスイッチよりピコ。ただしピコのパルス幅は短ければ短いほどいいわけではない
老人性色素斑のスポット治療では、当院は現在ほとんどピコレーザーを使用しています。
Qスイッチレーザーでも老人性色素斑は治療できますが、当院の臨床経験でも、また複数の報告でも、PIHが問題になることがあります。ピコレーザーでは、さらに短いパルス幅を利用して光音響・光機械的作用を強くし、周囲への熱影響を抑えながら色素へ作用させることができます。しかし、ピコレーザーのパルス幅は短ければ短いほどよいわけではありません。極端に短いパルス幅はPIHを抑える方向には有利でも、老人性色素斑を十分に反応させ、きれいにクリアランスを得ることとは別問題です。当院では、非常に短いピコ秒パルスからディスカバリーピコ バリオパルスのLong側、750ps固定のenlighten SRまで実際に使用できる環境があるため、病変による反応の違いを確認しながら治療しています。
だからこそ、当院では「最短パルス=最良」ではなく、「そのシミに最適なパルス幅を選ぶ」ことを重視しています。そして老人性色素斑治療で避けたいのが、シミを中途半端に残したところへPIHが重なることです。PIHをできるだけ抑えながら、老人性色素斑そのものはきちんと取る。そのために、波長・パルス幅・出力・スポット径・照射エンドポイントまで含めて治療を設計することが重要だと考えています。今回は、少しマニアックな内容でしたが、シミ治療においては、患者さまにとって非常に大事な機械の種類やモードの選択についてお話させていただきました。
監修医師

まゆりなclinic名古屋栄 院長
<経歴>
三次救急病院、美容皮膚科・美容外科クリニックで、内科・外科・救急医療から美容医療まで幅広い診療経験を積む。2022年に「名古屋・栄の美容皮膚科」としてまゆりなclinic名古屋栄を開院。
医学的根拠に基づき、「本当に良いと思えるものだけを提供すること」を信条とし、効果が不確かな施術は採用せず、自ら体験して効果を実感できた医療だけを厳選して導入しています。
特にシミ取りレーザー(ピコレーザー)ニキビ跡治療(フラクショナルレーザーやクレーター状のニキビ跡に対する剥離治療[サブシジョン]など)、ヒアルロン酸やボトックスを用いた注入治療医療ダイエット(脂肪溶解注射・GLP-1など)を得意としており、一人ひとりに合わせたオーダーメイドな美容医療を提供しています。
わからないことや不安なことがあれば、どんなことでもお気軽にご相談ください。医師の視点から、科学的根拠に基づいて丁寧にお応えします。
【参考文献】
- Anderson RR, Parrish JA. Selective photothermolysis: precise microsurgery by selective absorption of pulsed radiation. Science. 1983.
- Kim JY, et al. A Split-Face, Single-Blinded, Randomized Controlled Comparison of 532 nm Picosecond Nd Laser versus 532 nm Q-Switched Nd Laser in the Treatment of Solar Lentigines. Ann Dermatol. 2020.
- Vachiramon V, et al. Q-switched double frequency Nd 532-nm nanosecond laser vs. double frequency Nd 532-nm picosecond laser for the treatment of solar lentigines in Asians. Lasers Med Sci. 2018.
- A Prospective Study in the Treatment of Lentigines in Asian Skin Using 532 nm Picosecond Nd Laser. Lasers Surg Med. 2018.
- Mardani G, et al. Treatment of Solar Lentigines: A Systematic Review of Clinical Trials. J Cosmet Dermatol. 2025.
- Quanta System. Discovery PICO Series / VarioPulse Technology.
- CUTERA. enlighten SR Technical Specifications.








