肝斑はなぜメラニンだけの病気ではない?基底膜・真皮・血管・肥満細胞・老化線維芽細胞まで解説|名古屋
- 2026.10.3
肝斑は「メラニンが増えて頬が茶色くなる病気」と説明されることがあります。もちろんメラニンの増加は肝斑の中心的な変化ですが、現在では、それだけでは肝斑の病態を十分に説明できないことが分かってきています。近年の病理学的研究では、肝斑の皮膚にはメラノサイトの活性化だけでなく、表皮と真皮の境界にある基底膜の障害、真皮の光老化、血管の増加、肥満細胞の増加、老化した線維芽細胞の蓄積など、複数の変化が同時にみられることが報告されています。こうした変化が互いに影響し合うため、肝斑は単純に「メラニンを壊せば終わる」タイプの色素性病変ではありません。この病態を理解すると、なぜ肝斑が治りにくいのか、なぜ一度薄くなっても再び濃くなることがあるのか、なぜ強い刺激を繰り返す治療が必ずしも適していないのかが分かりやすくなります。
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目次
肝斑は「表皮だけ」の病気ではありません
肝斑の皮膚では、表皮のメラニン量が増加し、メラノサイトが活性化していることが知られています。紫外線、可視光、ホルモン、炎症、酸化ストレスなどの刺激によって、ケラチノサイトや線維芽細胞、血管内皮細胞などからさまざまな情報伝達物質が放出され、それがメラノサイトを刺激してメラニン産生を促進すると考えられています。しかし、肝斑の特徴は表皮の色素増加だけではありません。病変部では、基底膜の障害、真皮の光老化、血管増生、肥満細胞の増加、老化線維芽細胞の蓄積、メラノファージの増加などが報告されています。
つまり肝斑は、表皮と真皮をまたぐ皮膚全体の変化として考えた方が理解しやすい病態です。
基底膜とは?肝斑では表皮と真皮の境界が乱れている

皮膚は大きく表皮と真皮に分かれています。その境界に存在する非常に薄い構造が基底膜です。基底膜には、表皮と真皮をつなぐ、細胞の位置を保つ、物質の移動を調整する、皮膚構造を安定させるといった役割があります。肝斑の病変部では、この基底膜に薄化、断裂、連続性の低下などがみられることが複数の組織学的研究で報告されています。電子顕微鏡では、基底膜の構造障害やアンカリングフィブリルの減少が観察された報告もあります。
なぜ基底膜が傷むと肝斑が治りにくくなるのか
基底膜が正常であれば、表皮と真皮の境界は比較的明瞭に保たれています。
しかし、慢性的な紫外線曝露などによって基底膜が傷むと、メラニンやメラニンを含んだ細胞成分が真皮側へ移行しやすくなると考えられています。さらに、基底膜障害に関連して、メラノサイトが真皮側へ突出するようにみえるpendulous melanocyteと呼ばれる所見も報告されています。真皮側に移行したメラニンは、マクロファージに取り込まれてメラノファージとして残ることがあります。この状態では、表皮のメラニンだけを減らしても色調が完全には改善しにくくなる可能性があります。これが、肝斑を単純な表皮色素増加として扱えない理由の一つです。
基底膜障害にはMMPが関係しています
紫外線や慢性的な炎症は、matrix metalloproteinases、いわゆるMMPと呼ばれる酵素の活性化を促します。MMPは細胞外マトリックスを分解する酵素群で、MMP-2やMMP-9などは基底膜を構成するIV型コラーゲンの分解にも関与します。肝斑では、慢性的な紫外線曝露、肥満細胞から放出されるトリプターゼ、老化線維芽細胞などがMMP活性を高め、基底膜障害につながる可能性が指摘されています。つまり肝斑では、メラニンが増えているのと同時に、メラニンを取り囲む皮膚構造そのものが変化していると考えられます。
真皮には「光老化」の変化がみられます

肝斑の病変部では、solar elastosis、つまり日光性弾性線維症と呼ばれる変化が多く認められます。これは長期間の紫外線曝露によって、真皮の弾性線維が太く、曲がり、断片化し、正常な構造を失っていく光老化の所見です。複数の研究で、肝斑部では周囲の皮膚よりもsolar elastosisが強いことが示されています。これは肝斑が単純な色素異常ではなく、慢性的な光老化と深く関係する疾患であることを示しています。
老化した線維芽細胞もメラニンを増やす可能性があります
線維芽細胞は、真皮でコラーゲンや細胞外マトリックスを作る重要な細胞です。
しかし、紫外線などによるダメージが蓄積すると、一部の線維芽細胞は細胞老化、いわゆるcellular senescenceという状態になります。老化細胞は単に活動を停止するだけではありません。SASP(senescence-associated secretory phenotype)と呼ばれる特徴をもち、SCF、VEGF、MMP、ET-1、炎症性サイトカインなどを分泌することがあります。
これらの物質は、メラノサイトの活性化、血管増生、基底膜障害などに関与する可能性があります。つまり、真皮に存在する老化線維芽細胞が、表皮にあるメラノサイトへ情報を送り続け、メラニン産生を促している可能性があるということです。
このような表皮と真皮の細胞同士の情報伝達はparacrine signalingと呼ばれ、近年、肝斑の病態を理解するうえで重要な概念になっています。
SCFとc-KITもメラノサイトを活性化します
老化線維芽細胞などから分泌されるSCFは、メラノサイト表面にあるc-KIT受容体と結合します。このシグナルによってMAPK/ERK系などが活性化され、MITFと呼ばれる転写因子を介してメラニン産生に関係する遺伝子発現が促進されます。つまり、肝斑では紫外線が直接メラノサイトを刺激するだけでなく、周囲の細胞から分泌される物質によって間接的にメラニン産生が維持されている可能性があります。これも、紫外線を避けただけではすぐに肝斑が消えない理由の一つとして考えられています。
肥満細胞も肝斑に関係しています
肥満細胞(mast cell)は、アレルギーや炎症反応に関係する細胞としてよく知られています。
肝斑の病変部では、周囲の正常皮膚と比較して肥満細胞が増加していることが複数の研究で報告されています。紫外線刺激を受けると肥満細胞は活性化し、ヒスタミンやトリプターゼなどを放出します。
ヒスタミンはH2受容体を介してメラノサイトを刺激し、メラニン産生を促進する可能性があります。一方、トリプターゼはMMPを活性化し、IV型コラーゲンなどを分解することで基底膜障害に関与すると考えられています。肥満細胞はさらにVEGF、FGF、TGF-βなどの血管新生に関係する因子を放出します。つまり肥満細胞は、メラニン産生、基底膜障害、真皮の光老化、血管増生の複数に関与する可能性があります。
肝斑では血管も増えています
肝斑というと「茶色い色素」の印象が強いため、血管との関係は意外に思われるかもしれません。しかし、肝斑の病変部では血管の数や大きさが増加し、VEGFの発現も増加していることが報告されています。さらに、血管内皮細胞から分泌されるET-1はメラノサイトを刺激し、MITFやチロシナーゼなどメラニン産生に関わる経路を活性化する可能性があります。つまり血管は、単に肝斑の近くに増えているだけではなく、メラノサイトに信号を送る可能性があるということです。これが、肝斑の中に赤みを伴う症例があることや、近年、血管成分を含む肝斑が研究されている理由の一つです。ただし、すべての肝斑を単純に「血管型」「非血管型」と分類できるほど確立された概念ではありません。
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肝斑の病態は互いにつながっています
肝斑では、紫外線、可視光、ホルモン、炎症などによってメラノサイトが活性化し、メラニンが増えます。一方で、慢性的な紫外線曝露により線維芽細胞の老化や肥満細胞の活性化が起こり、MMP、SCF、VEGF、ET-1などが増加します。その結果、基底膜障害、血管増生、真皮の光老化が進み、さらにメラノサイトが刺激されるという循環が形成されている可能性があります。こうした皮膚内の複雑な相互作用が、肝斑の慢性化や再発に関係していると考えられています。
なぜ肝斑は一度薄くなっても再発するのか
レーザーや外用薬で表皮のメラニン量が減ると、肝斑は一時的にかなり薄くなることがあります。しかし、その下にある基底膜障害、光老化した真皮、老化線維芽細胞、血管、肥満細胞などの環境が完全に正常化したとは限りません。その状態で紫外線、可視光、摩擦、炎症、ホルモン変化などの刺激が加わると、再びメラノサイトが活性化し、色が濃くなる可能性があります。
この点が、老人性色素斑のように色素をレーザーで壊せば治療終了、という考え方とは大きく異なります。
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この病態を知ると、肝斑治療で刺激を抑える理由が分かります
肝斑治療では、一度に強くメラニンを破壊しようとする治療が必ずしも適しているわけではありません。肝斑には、基底膜障害、炎症、肥満細胞、血管、光老化など複数の要素が関係しています。強い刺激を繰り返すことで炎症が生じれば、その炎症自体がメラノサイトを刺激し、PIHを加える可能性もあります。そのため当院では、肝斑に対してOPトーニングやピコトーニングなどを使用する際も、肌状態を確認しながら必要以上の刺激を避けることを重視しています。特に刺激への反応が強い肝斑では、当院ではDiscovery PICO VarioPulseのQスイッチモードを使用するOPトーニングを選択することがあります。
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トラネキサム酸が肝斑に使われる理由も病態から考えられます

トラネキサム酸は肝斑治療で広く使用されます。その作用は単純な「美白」だけではありません。紫外線によって活性化されるプラスミン系を抑制することで、アラキドン酸やα-MSHなどを介したメラニン産生を抑える可能性があります。さらに、研究ではVEGFやET-1を介した血管新生に対する影響や、肥満細胞、血管成分への影響も報告されています。
ただし、トラネキサム酸だけで肝斑のすべての病態を改善できるわけではありません。
当院でも肝斑の状態に応じて、OPトーニング、ピコトーニング、C-OPERA、外用治療、スキンケア、紫外線・摩擦対策などを組み合わせています。
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肝斑治療は「メラニンを減らす」だけでは考えません
ここまでの病態を踏まえると、肝斑治療の目的は単純に今見えているメラニンを減らすことだけではありません。
重要なのは、過剰なメラニン産生を抑えること、紫外線や可視光による刺激を減らすこと、炎症や摩擦を減らすこと、肌状態を安定させること、必要以上にレーザー刺激を加えないこと、改善後も再発を予防することです。
当院でも、肝斑だから決められた回数のレーザーを続けるという考え方ではなく、その時点の色調、肌の反応、赤み、PIH、混在するシミなどを確認しながら治療内容を調整しています。
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肝斑を「皮膚全体の病態」として見ることが大切です
肝斑は、表面に茶色く見える色素だけの問題ではありません。
病変部では、表皮ではメラノサイト活性化とメラニン増加、基底膜では薄化・断裂・構造障害、真皮ではsolar elastosis、老化線維芽細胞、メラノファージ、肥満細胞ではヒスタミンやトリプターゼなどを介したメラニン産生や組織変化、血管では血管増生やVEGF、ET-1を介したメラノサイト刺激など、複数の変化が報告されています。
これらは別々に起きているのではなく、互いに影響しながら肝斑を維持している可能性があります。そのため、肝斑は濃いところにレーザーを当てれば終わる病変ではありません。
病態を理解したうえで刺激を抑え、紫外線や炎症を管理しながら、必要に応じてレーザー、内服、外用、導入治療などを組み合わせることが重要です。
よくある質問
Q1.肝斑はメラニンが多いだけの病気ではないのですか?
メラニン増加は重要な特徴ですが、それだけではありません。基底膜障害、真皮の光老化、血管増生、肥満細胞、老化線維芽細胞など複数の変化が報告されています。
Q2.基底膜が傷んでいると肝斑は治りにくくなりますか?
基底膜障害によってメラニンやメラノサイト関連成分が真皮側へ移行しやすくなる可能性があり、肝斑の慢性化や治療抵抗性に関係すると考えられています。ただし、個々の症例で基底膜障害の程度を通常の診察だけで直接測定することはできません。
Q3.肝斑に血管も関係するのですか?
肝斑部では血管数や血管径の増加、VEGF発現増加などが報告されています。血管内皮細胞由来のET-1などもメラノサイト活性化に関与する可能性があります。
Q4.肥満細胞とは何ですか?
炎症やアレルギー反応に関係する免疫細胞です。肝斑部では増加していることが報告されており、ヒスタミンやトリプターゼなどを介してメラニン産生、基底膜障害、血管増生などに関与する可能性があります。
Q5.老化線維芽細胞とは何ですか?
紫外線などのダメージによって細胞老化した真皮の線維芽細胞です。SCF、VEGF、MMP、ET-1などさまざまな物質を分泌し、メラノサイトや血管、基底膜に影響する可能性があります。
Q6.だから肝斑はレーザーを強く当てない方がいいのですか?
肝斑では炎症や刺激が色素を悪化させる可能性があるため、必要以上に強い刺激を避けることが重要です。ただし、レーザー自体が悪いわけではなく、病変の状態に応じた機器選択と照射条件が重要です。
Q7.肝斑は完全に治せますか?
肝斑は慢性・再発性の性質をもつ色素異常で、治療でかなり薄くできることはありますが、再び濃くなることがあります。そのため改善後も紫外線対策やスキンケア、必要に応じた維持治療を行います。
まとめ|肝斑はメラノサイトだけではなく皮膚環境全体の変化として考える
肝斑ではメラノサイトが活性化してメラニンが増加しています。
しかし現在では、それだけでなく、基底膜の障害、真皮の光老化、老化線維芽細胞、肥満細胞、血管増生などが複雑に関係していることが分かってきています。
これらの変化が互いに影響することで、肝斑が長く続き、一度改善しても再び濃くなる可能性があります。
肝斑治療で大切なのは、今見えているメラニンだけを追いかけることではありません。
紫外線、可視光、炎症、摩擦などの刺激を抑え、肌状態を安定させながら、必要に応じてレーザー、内服、外用、導入治療などを組み合わせます。
肝斑を皮膚環境全体の変化として理解することが、治療を長期的に考えるうえで重要です。
文責
まゆりなclinic名古屋栄
院長 加藤成貴
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